目の端に
風雪ですっかり色をなくした
煮染色の暖簾が留まる。
その佇まいに引き寄せられて
ガタついた扉を引く。
入った瞬間に、
「あー、これこれ」と思う。
大仏パーマが
伸びかけたおばちゃんが
「いらっはい」と笑う。
入れ歯が合っていないのだろか。
口元を見る。
よく分からない。
よくわからないまま、
テレビ台の下の
テーブルに着き、椅子を引く。
愛想のないメニューを見上げる。
癖で、瓶ビールの文字面を探してしまう。
おばちゃんが水を持ってくる。
コップのサッポロビールの
ロゴが掠れている。
おすすめを尋ねる。
「丼ものが、評判いいよ、カツ丼とか」と、
おばちゃんが笑いながら答える。
自分も笑う。
笑いながら、
「じゃ、チャンポンを」という。
チャンポンが来る。
一口すする。
熱い。
火傷しそうに熱いけれど、
「あー、これこれ」と思う。
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