母さん、この場で謝っておきます!
しばらく鞄に入れっ放しで手つかずだった小説が、
飲み会の翌朝に台所でカップ麺のスープを吸い込み、
絶妙な匂いを放っていた。
その横には缶酎ハイが転がっている。
泥酔状態で〆のカップ麺を食べながら、
本でも読もうなどと企て、
汁をこぼして「あちっ!」とかいいながら、
結局は放置するという愚行に出たのだろう。
そんな堕落と深酒の日々を過ごしていたため、
本をあまり読めずにおり、
スマイル書房を長いあいだ留守にしてしまった。
店主失格!の幻聴が聞こえてくる。
いや、生の声なのだろうか...。
で、その文庫にファブリーズを吹き付けたところ、
紙はクタクタに波打っているけれど、
一応、読めるまでには匂いが気にならなくなった。
それが本書だ。
本書なのだけれど、
いつ購入したか記憶が定かではない。
泥酔状態で書店をふらふらとしていたのだろうか。
疑問を抱きながらも、読み進めていった。
内容やすぐ予想がつく結末はともかくとして、
サラサラとページをめくっていけるリズム感。
この小説はある平凡な家庭の主婦が、
夫や子どもたちの粗野な言葉と
見下すような態度に我慢できなくなり、
突如として家を飛び出す物語だ。
主婦も主婦で、欠点がないわけではないのだが...。
ストーリーはハッピーな方向へと展開する。
裏切りもどんでん返しもなく、
予定調和的にゴールへと進む安心感はあったが、
心をグッとつかむ衝撃や感動とは出会えなかった。
とはいえ、読後はほんの少し反省した。
自分も母につい冷たくあたる時もあるので、
気をつけなければならないな、と。
そんなことを考えていたところで、
本書を鞄に仕舞った経緯を思い出した。
母だ。母はわりと本を読むタイプで、
実家に帰った時に、
「読んだから貸す」というから借りたのだ。
微妙な香りのするクタクタの本書を見て、
お母さん、ごめんなさい、と大いに反省した。