故郷の苫小牧へは親の顔を見に月に何度か足を運んでいる。その道すがらの音羽町に数十年ぶりに通りかかった。灯台下暗しとはこのことか。荒涼と寂寥と脱力をブレンドしたような大好物の酒場景が、ひっそりと横たわっていた。「これだよこれ」誰に言うともなくそうつぶやき、身悶えする。これは夜に再訪せねば、という妙な闘志が湧き上がった。
なんて話は置いといて。
取材の合間に足を運んだ千歳の古食堂。その片隅にあったカキ氷機。いつの間にか側に立っていた妙齢のお女将さんが「こう見えても現役なのよ」とニヤリと笑んだ。どちらのことか分からなかったけども、どちらにしても素晴らしいことだと思った。かき氷をいただかなくても背中が少しヒンヤリしたのもよかった。
なんて話は置いといて。
地元のとある古酒場。マスターがフォークのギター弾き。かぐや姫が十八番。今も音叉で弦を調律し、アルバムのB面の妙を解いてくれる。もちろん焼き鳥も旨い。がしかし。先日うっかり「一曲聞かせてよ」なんてリクエストしたら、「ちょっと待ってて、仲間呼ぶから」という話になり、あれよあれよという間に熟年のお三方の即興ライブが始まってしまった。客はワタクシ一人。6つのまなざしが自分に集中する。微妙にずれるハモリがいずい。長い長い30分だった。
なんて話は置いといて。
北24条のHという古酒場。そこのマスターは、齢八十を超えるのだが、夏日にはこうしてアロハを粋に着こなす。敵わないし、憧れるし、愛らしい。「マスターカッコいいっすね」と褒めると「ハワイのなんだよね」と照れくさそうに笑った後、奥からアルバムを何冊か持ちだし、一枚一枚写真を指しながら、十数年前のハワイ旅行の全工程を長い時間をかけて説明してくれた。肴ではなくハワイで腹いっぱいになった。
なんて話は置いといて。
本当に信じられないくらい安い酒場で宴会を催し、あれこれ呑んであれこれ話してあれこれ計算した結果、「それでもこの店は幾ばくか儲かっている」という、実にどうでも良い結論を導き、納得し、安堵し、その夜はよく眠れた。
なんて話は置いといて。
ちょっと前になるけれど北広島市で開催された日本酒の会に参加した。道内外のさまざまな酒蔵の酒を味わえる、趣向ならぬ酒向を凝らしたイベントなのだが、当日は雨というかどしゃぶりというか大嵐。テントを皆で懸命に抑えていないと絶対に飛ばされるという超危険レベル。通常のイベントならほぼ中止なのにそうならなかったのは、参加者のほとんどが酒の権化たちだから。是が非でも元を取ってやるというアルコールゾンビにとって、天候などは屁でもないのだ。酒があればいつだって快晴なのだろう。オマエガユーナだけども。
なんて話は置いといて。
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